春から始まった逆転の3年間
三月の風が少しだけぬるくなったころ、Aさんは高校合格通知を手にしていた。
その紙を握りしめながら、彼女は心のどこかで不安を抱えていた。
——高校の勉強についていけるだろうか。
そんなAさんが選んだのは、合格直後の 入塾 だった。
「まずは学校の課題をしっかりやろう。わからないところはその日に解決しよう。」
塾でそう決めた日から、Aさんの高校生活は少しずつ形を変えていった。
夜、机の上でつまずいた問題があれば、スマホを開いてすぐ質問する。
次の日には必ずできるようになっている。
そんな積み重ねが、Aさんの 学校成績を安定してキープ させた。
ただ、どうしても避けて通れない大きな壁があった。
それは—— 英語。
単語を覚えても、文を読めない。
文法書を読んでも、どう使うのかがつかめない。
Aさんは「英語だけは頑張っても手応えがない」と感じていた。
高3になる春休み、塾の先生が一冊の本を差し出した。
『基本文法から学ぶ英語リーディング教本』
「これで“英語のしくみ”を作り直そう。読む力はここから変わるよ。」
Aさんは半信半疑だったが、その言葉には妙な説得力があった。
本書は図やイメージではなく、
品詞・働き・活用の“相互関係”という、見えない土台 を徹底して理解するための教材だった。
中1レベルから丁寧にやり直しながら、Aさんは自分がこれまで見逃していた“核心”に気づき始めた。
3週間がたつころ、
英語の文章が、まるで解体して再び組み立てられるように「見える」ようになっていた。
夏前。
Aさんは塾のアドバイスもあり、英検に挑戦した。
結果——合格。
手応えは数字以上のものだった。
「読めるって、こういうことなんだ」
そんな実感が、Aさんの肩の力をすっと抜いた。
そこからは 志望大学の過去問の精読 に本格的に取り組んだ。
一文一文の構造を追い、意味を丁寧につかみ、
「なぜその訳になるのか」
「どんな働きをしているのか」
頭の中で英語が組み立つたび、少しずつ自信が増えていった。
秋。
推薦入試の日、Aさんは緊張してはいたが、心の奥にひとつの確信があった。
——ここまでやってきた自分なら大丈夫。
これまでの努力と、英語を「誤魔化さずに理解した」日々が背中を押してくれた。
試験の数週間後、Aさんは合格通知を受け取る。
志望大学の名前を見つめたまま、Aさんは静かに息をついた。
「やっと、ここまで来た。」
合格通知を渡されたときの、あの春の日の不安はもうどこにもなかった。
