大手予備校の決断が投げかけたもの

2025年8月、駿台予備学校を運営する駿河台学園は、2026年春の入試から東大をはじめとする大学別の合格者数の公表をやめると発表しました。
背景には「複数の予備校や塾に通うダブルスクール生をどのようにカウントするか」という問題があります。大手予備校の合格実績を単純に足し合わせると、大学の定員を大きく超えてしまうという形骸化が以前から指摘されていました。
ダブルスクール自体は悪ではない
ただし、複数の塾や予備校を利用すること自体は、受験生にとって自然な選択です。たとえば「数学と英語は駿台」「理科は別の予備校」と分けて学ぶ生徒も少なくありません。その場合、数学や英語の成績が伸び、志望校合格につながったとしたら、その成果は駿台の指導による部分も確かにあるはずです。
つまり「どの予備校の実績にカウントすべきか」という問いには正解がなく、むしろ「実績数だけを評価軸にする世の中のほうが問題」だといえます。合格実績はあくまで目安であり、本当に見るべきは「その塾や予備校でどのような学びのプロセスがあったか」「誰がどのように成長したか」という点ではないでしょうか。

合格実績の数字に頼る時代からの転換
駿台の決断は、この構造的な問題を正面から指摘したものといえます。これまで予備校業界は「合格者数=ブランド力」という図式に縛られてきました。しかし、海外大学への進学や多様な進路選択が広がる中で、単純な合格数の競争はすでに意味を失いつつあります。
数字の裏にある生徒一人ひとりの努力や成長をどう見せるか。その姿勢にシフトすることこそ、教育サービスに求められる本来の価値であり、業界全体に大きな影響を与えるはずです。
一人ひとりのストーリーに目を向けるべき

合格実績という数字はわかりやすく、比較しやすい指標です。しかし、そのわかりやすさの裏で「数字しか見ない」風潮を生んでしまったのも事実です。
これから求められるのは、「駿台で数学が苦手だった子が自信を持てるようになった」「ある先生との出会いで学びに前向きになれた」といった具体的な物語を積み重ねることです。そうしたストーリーの集合体こそが、本当の意味での教育実績ではないでしょうか。
まとめ
駿台が合格実績の公表をやめるという決断は、一見すると弱気な戦略に映るかもしれません。しかし、実際には「数字のための数字」から脱却し、生徒一人ひとりの成長に光を当てるというメッセージです。
予備校業界にとっても、保護者や受験生にとっても、これは大きな転換点となるでしょう。今後の塾予備校選びは、単なる合格者数ではなく「どんな学びの場であり、どんな成長を支えてくれるのか」を見極める視点がますます重要になっていきます。
